二代目昇降デスクを作った
今から 3 年前の 2021 年、私は初代の昇降デスクを自作した。 その頃は、このデスクが長きにわたって私の作業を支える相棒となるであろうと漠然と考えていたものである。
初代デスクについては、拙稿「デスク構成スナップショット 2024」にて紹介しているが、それもまた物語の一部に過ぎない。
そもそも、始まりがあるものには終わりもある。 人生において「一生使える」と決意を固め、じっくり考えて購入したモノほど、時の流れとともにその決意の陰にある想像力の限界が露呈し、いずれ手放さざるを得なくなることが私の経験上多い。 このデスクもまた、残念ながら例外ではなかったのである。
手放す理由
自作 PC を手放す経緯を書いた記事 にも述べた通り、引越しは自分が本当に必要とするモノの本質を考えざるを得ないイベントである。
実際、本質とは離れたところでも問題は存在した。 まず、引越し先の部屋の広さが、横幅 180 cmもある初代デスクを置くには適さなかったのだ。
さらに言えば、もし自分一人で生きていくのでなければ、歳と共にパーソナルスペースが次第に狭まっていくのは一般的に観測される現象である。 ましてや、東京 23 区の限られた住環境では、広々とした家具を置く贅沢を許されないのが現実だ。
こうして、物理的にもデスクの縮小を検討する必要が生じた。
しかし、ここまで述べたのはあくまで建前にすぎない。 真の理由は日々デスクを使う中で徐々に浮かび上がってきた疑問にある。
当初は、広い天板をもつデスクが仕事場として理想的だと思っていた。 しかし、実際にその上に様々な物を置いてみると、果たして本当に必要かと考えるものが大半だった。
デスクは集中するための場であり、雑多な物がそこに置かれていることに違和感を覚えたのだ。 となれば、最初から必要以上に物が置けないほどにコンパクトなデスクにするべきではないかと考えるようになった。
さらに、初代デスクの天板は定期的にオイルを塗ってメンテナンスする計画で購入したが、現実は厳しかった。 約 20kg ある天板を動かすのは容易ではない。
仮にその労力を厭わないとしても、180cm x 60cm という広大な面積に均一にオイルを塗る作業は気が滅入るだろう。 結果として、一度もメンテナンスを行うことはなかったのである。
結局、引越しがデスクを小さくする直接的な理由ではない。 むしろ、デスクの本質的な役割、すなわち集中力を高める場としての役割に立ち返るために、初代デスクを手放し、新たなデスクを作り上げる道を選んだのだ。
天板について
新しいデスクの天板は、初代と同じく マルトクショップ でオーダーした。
初代デスクでは、集積材のウォールナットを選んだが、今回は少し奮発し、以前から気になっていた「世界最高級の木材」チークを選択することにした。
ウォールナットももちろん美しいが、集積材ゆえの人工的な均一さがやや惜しいところだった。 あの独特の重厚感と洗練された深い色合いは素晴らしいのだが、何か「自然」という点であと一歩足りない気がしていたのだ。
そこで、今回は一歩冒険して天然素材の中でも評価の高いチーク材にチャレンジした。 チークと言えば、耐久性も高く、家具として時を経るごとに味わいが増す木材として名高い。

マルトクショップには以下のようにオーダーした。
- 商品名: チーク無垢板フリーカット
- 寸法: 厚さ 25mm、幅(奥行)600mm、長さ 971mm
- 面 [A, B, C, D]: 上下 R 面(5R)+ 磨き
- コーナー R [A, B, C, D]: 30
- 重量: 約 9.4kg
- 反り止め: 無し
- ジャストカットの有無: 有り
- 用途: 三方向使用
- 塗装: 自然塗料クリアー両面
- 金額: 51,300 円

新たなデスクには、いくつかこだわりのポイントがある。
まず第一のポイントは天板のサイズである。 手持ちのモニター、キーボード、マウスをゆったりと配置した結果、おおよそ横幅 1000mm、奥行き 600mm があれば十分と判断した。
しかし、ただ 1000mm に設定するだけでは面白くない。 そこで縦横比を黄金比にしてみた。 計算の結果、横幅が 971mm という少々中途半端な数値になってしまったが、これが意外と良い。 妙に「整っている」気がするのだ。
無意味ではあるが、CSS で例えるなら以下のようなイメージである。
.desktop {
width: 971px;
height: 600px;
border-radius: 30px;
}
「厚さ」を CSS で表すことはできないが、25mm にすることで「まな板」に見えないようにしている。 1mm 薄くするだけで天板はかなり軽くなるので強度が保てるのであれば、できるだけ薄くしたほうが良いと思う。
次に第二のポイントとして、面取り加工がある。
初代デスクは角ばったエッジだったため、腕を乗せるとどこか硬さを感じ、長時間の作業では微妙な不快感が残った(痛みとまではいかないが、気になる程度に)。 今回は、この「ささやかな不快感」を解消すべく、天板の表裏に半径 5mm の丸みを加える面取り加工を施した。 これにより、触れた時の肌触りが一層優しくなり、まさに「角が取れた」仕上がりである。
三番目のポイントはコーナーの処理である。
初代デスクは角が直角で、これが意外と厄介であった。 特に何かに集中しているときにうっかり角に皮膚を引っかけ、痛い思いをしたことが一度や二度ではない。
最近は特に家具や壁との距離感が甘くなってきたため、ここは思い切って角を丸くすることにした。 これで、デスクの角に攻撃されることもなくなるはずである。
最後のこだわりは塗装である。
初代デスクの時は自力でヤスリをかけ、ワトコオイルを塗ったが、これが思いのほか重労働であった。 180cm の天板にムラなくオイルを塗るのは至難の業であり、手間と時間を惜しまなければならない。
今回は、約 7,000 円を追加して塗装を依頼することにした。 コストはかかるが、プロの手による仕上がりを一度経験しておくことで、今後自分でメンテナンスする際の参考になるだろう。
組み立て方法
使用する工具
組み立てには基本的に電動ドライバーを使用する。 なくても問題ないけど、出来上がるまでのスピードと労力が全然違う。

BOSCH のコードレス電動ドライバー を愛用している。 アダプタを装着することでドリルビットにも対応可能である。 収納スペースを取らないのが素晴らしい。

とはいえ、力加減が微妙に要求される場面も存在する。 そうした時には、頼りになるのが ヘックスレンチ だ。
こちらはボールポイント付きで、若干の角度でも回せる仕様になっているため、狭いスペースや微妙な調整が必要な箇所でもストレスなく使える。 このヘックスレンチのおかげで、力加減が繊細に調節できるため、重要な仕上がり部分でのミスも防げる。
鬼目ナットを使った組み立て
今回、新しいデスクの天板を固定する際には、鬼目ナットを採用することにした。 鬼目ナットを使えば、ボルトの脱着が容易になり、天板を何度でも取り外すことが可能となる。 これは単なる利便性の話にとどまらず、メンテナンス性にも優れている。
初代デスクでは、手軽さ重視でタッピングねじを使っていた。 これも一見合理的な選択だが、実はデメリットが潜んでいる。
タッピングねじは直接木材にねじ込むため、しっかり固定されるものの、一度ねじを締めてしまうと、取り外しが厄介になるのだ。 天板を外そうとすると木材が傷つく恐れがあり、やむなく別の場所に穴を開け直す必要が出てくる。
そう考えると、鬼目ナットの取り外し可能な仕様は理にかなっている。 引越しのたびに簡単に天板を外して運べるし、オイルメンテナンスの際にも気軽に作業ができる。
天板の下側に鬼目ナットをしっかり埋め込み、そこにボルトを通せば固定はバッチリだ。 しかも、木材の劣化や傷みも抑えられるため、耐久性の向上にも寄与する。

取り付ける脚のサイズによって寸法は異なるが、今回選んだ鬼目ナットとボルトは以下のとおりである。
鬼目ナットにはツバ付きとツバなしがあるが、ほとんどの用途ではツバ付きが適している。 ツバなしの選択肢もあるにはあるが、埋め込みすぎるリスクや見た目が劣るというデメリットがある。

さすがに高価なチーク材に一発勝負で鬼目ナットを埋め込む勇気はない。 そこで、事前にマルトクショップで練習用のサンプル木材を手配しておいた。 高級素材とあって、万が一ミスすれば取り返しがつかない。 失敗を未然に防ぐための予行演習は必要不可欠である。

鬼目ナットを埋め込む際、まず下穴を開ける必要がある。 今回は 8mm ドリルビット を使用したが、ここでの失敗は命取りである。 誤って木材を貫通させるリスクを避けるため、ビットにマスキングテープを巻きつけて深さのガイドにした。 心配性な方はドリルガイドを使用するのも一手である。
下穴の深さは、ボルトの長さに合わせて 20mm に設定した。 さらに、鬼目ナットを挿入する際には、軽く木工用ボンドを塗布すると安定性が増し、しっかりと固定される。 こうしたひと手間が、デスクの寿命と強度に大きく貢献するのだ。
昇降デスクの脚について

昇降デスクの脚部は、初代デスク同様、Flexispot 製を選んだ。 このメーカーはデスクの脚部だけを単体で販売もしているため、自作昇降デスク派には心強い存在である。
初代デスクでは E7 というモデルを使用していた。 E7 はその安定感とスムーズな昇降機能で、日々の使用において全く不自由を感じなかった。
だが、一つだけ気になる点があった。それは「重い」ということ。 脚部の重量がなんと 35kg あり、デスクを少し動かすだけでも筋トレのような労力を要した。 組み立ての際も一苦労で、持ち上げるたびに「やれやれ」とつぶやく羽目になったのは今でも覚えている。
そこで今回は、よりコンパクトな EF1 を採用することにした。 選択肢は他にもあるように見えて、実は天板の横幅が 100cm 未満だったため、実質的にこのモデル一択だった。
しかし結果的に、EF1 の特徴である軽量設計(約 20kg)には大変満足している。 耐荷重も 70kg と十分で、むしろ「もうこれでいいんじゃないか」と思える仕様だ。
鬼目ナットの埋め込み

鬼目ナットの埋め込みは一見シンプルに思えるかもしれないが、実際に作業を始めると緊張感は一気に最高潮に達する。 少しでも埋め込み位置がずれれば脚がしっかり固定されず、下穴を深く掘りすぎて貫通したら天板が台無しになる。 作業中は「今ここでミスったらすべてが水の泡」というプレッシャーが常に付きまとっていた。
下穴を開けるたびに、ドリルビットのマスキングテープの位置がずれていないか慎重に確認し、穴に入り込んだ木屑は エアダスター で丁寧に取り除くなど、時間をかけて少しずつ作業を進めた。 この慎重さのおかげで、作業時間は想定以上にかかってしまったが、トラブルを未然に防ぐには必要な工程であった。
また、天板の裏面にはサンワダイレクトのケーブルトレー 用の鬼目ナットも事前に埋め込んでおいた。 幸運にも脚取り付け用の鬼目ナットと同じ規格であった。
ケーブルトレーの設置場所も、日常の配線整理を考えてバランスよく配置した。
天板と脚のドッキング
いよいよ組み立てた脚を天板とドッキングさせる工程へ。 まずは脚をひっくり返して鬼目ナットの位置に合わせてみる。
何度も位置を確認したとはいえ、やはり一発で合うかは一抹の不安が残る瞬間だ。 けれども心配は無用だった。 穴の位置が完璧に合っており、まさに計算通り。 自作の醍醐味を感じる瞬間である。

ボルトを鬼目ナットにねじ込んでいく作業は、まさに至福のひとときだ。

デスクの脚は天板の反り防止の役割も果たしている。
完成
ひっくり返して完成。 とは言っても、コントローラの取り付けについてはまた後ほど触れることにしよう。
初代デスクを思い出すと、天板と脚を合わせて 55kg もの重さがあったため、組み立て終わってからひっくり返すのは一苦労だった。 しかし、今回のデスクは重量が約 30kg と、ほぼ半分。 ひっくり返しも移動も一人でスムーズにできるのが嬉しいポイントだ。

EF1 ならではの、脚のスリムなデザインと天板の厚みが絶妙なバランスを保っており、見た目も実用性も文句なし。 初代デスクのヘビーさも味わい深かったが、この軽快さはなかなかに新鮮である。

側面に映える無垢材ならではの美しい木目が、チーク材の特有の風格を醸し出している。 この柔らかな風合いは、まさにチークを選んでよかったと思える理由だ。

普段の作業ではほとんど目にすることはないが、天板の裏側も一見の価値あり。

改めて、チーク材にして正解だったとしみじみ感じる。 肌に触れたときの感触、奥行きのある木目、時間とともに変化する風合い。 見ていて飽きない。

せっかくデスクを新調したので、ラグも新しいものを用意。 サイズは 100×140cm とデスクにぴったりで、椅子を置いても圧迫感がない。
選んだのは unico の MOSTE というモデル。 デスクと床の間に程よいコントラストが生まれ、空間全体に温かみが増した。
コントローラを磁石でくっつける
前々から感じていたことだが、昇降デスクのコントローラは実用性はあるものの、デザイン性に欠けている。 木製の天板にプラスチック製のコントローラが鎮座しているのは、どうにも締まらない。
そこで、「できれば目に触れないところにいてほしい」という願いを込めて、コントローラをデスク背面に磁石でくっつけるというアイデアを実行することにした。
この改造に必要な材料は以下のとおり。
- ネオジム磁石 18 x 3mm 皿穴 5mm
- ステンレスさら小ねじ M4 x 30

磁石を挟むように取り付ける。

裏側はこのようになる。

デスク脚は鉄製なので、コントローラを磁石でぴたりとくっつけられる。 デスクの高さを変えたくなったら、コントローラを軽く引っ張って手元に持ってくれば良いだけ。 ノールックで操作もできるので、意外とこの位置が使い勝手の良い落ち着き先に。
実際に使ってみてわかったのだが、メモリ機能のおかげでコントローラを見ずともデスクの高さを微調整できるのはありがたい。 さらに、物理ボタンなので、手探りでも直感的に操作できる。 これがもし E7 のタッチ式だったら、いちいち画面を確認する必要があっただろう。
唯一の難点は、この方法にすると障害物検知機能が機能しなくなる点。 少々のリスクではあるが、メリットとトレードオフと考えれば、十分納得のいく改造だ。
側面のボルトを付け替える。
EF1 の脚に付属していたボルトの色はシルバー。 そのままでは、デスクの側面にチラリと浮いたシルバーが覗き、どうにも落ち着かない。 視界に入るたびに少し違和感があったため、ボルトを付け替えることにした。

ここで選んだのは、脚のカラーにしっくり合う黒染めのボルトである。 具体的には、低頭六角穴付ボルト 黒染め全ネジ M6 × 20 を使用。
黒染めのボルトは EF1 の脚とも馴染み、シックな雰囲気が増す。 細かい部分での見た目の統一感は、やはり大事だ。

付け替え後のデスク側面は、良い感じに落ち着いた仕上がり。
おまけ
これにて二代目昇降デスクのビルドログは完結である。
とはいえ、デスク環境全体については来年の「デスク構成スナップショット」で詳細に解説していく予定だが、今回はせっかくなので配線回りなどのちょっとした工夫について軽く触れておこう。

ケーブルはデスク周りの見た目を大きく左右する要素だ。 散らかったケーブルは視覚的なストレスのもとになるため、以下のアイテムを活用して目立たないように整理した。

電源タップ選びも重要である。 デスク周りの電源管理は、見た目だけでなく安全性にも関わるため、信頼できる製品を選びたい。
エレコム 電源タップ 6 個口 ブラック T-KM01-2620BK

ノート PC スタンドとして、本来の用途とは異なるが 山崎実業のマグネットバスルーム風呂椅子ホルダー を購入した。 これ以上天板に穴を開けるのは嫌だったし、クランプ式も見た目に劣るので、どうしたものかと考えていたところたまたま見つけたのがこれ。 磁石が強力なので剥がれる心配はないし、何よりも見た目がスタイリッシュで気に入っている。

電源ケーブルはデスク脚に沿わせることで、正面からはほとんど見えないように配置してある。

ノート PC はクラムシェルモードに設定し、デスク横に配置。 これにより、デスク上のスペースが大幅に広がり、作業エリアが快適に。 さらに、排熱もしやすくなり、PC のパフォーマンス維持にも寄与している。
さいごに

「家は 3 回建てて初めて満足のいく家ができる」と住宅業界でよく言われる。 だが、2 代目のこのデスクは 2 度目にしてほぼ理想形に到達したのではないかと感じている。
実用性もデザインも申し分なく、現時点で何も不満点が見当たらない。 それでも、いつかはこのデスクにも次なる課題が見えてくるのかもしれないが、今回のデザインには一つ大きなアドバンテージがある。 それは、このデスクが「コンパクトで Detachable」な点だ。
天板や脚のパーツを組み替えることで、必要に応じてデスクの姿を変えられるため、もしこのデスクが将来のニーズに合わなくなっても、部分的に再利用が可能である。 この柔軟性は長い目で見てもありがたい要素だ。 次のデスクに移り変わる際にも、素材やパーツが無駄にならずに済む。

製材直後のチークはまだ浅い色味で、一般的にはその美しさは控えめだとされている 1(とはいえ、初期の淡い色も十分美しいと個人的には思うが)。 チークは経年変化後の色こそが美しいと言われているので、これからの過程が楽しみである。