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ペンシルストライプのバンドカラーシャツを作った

最近は服作りからすっかり遠ざかっているが、かつては熱心に取り組んでいたものである。 洋裁には、ミシンや作業台をはじめとして、多くの道具と広い作業スペースが必要となる。 現在の環境ではそのような条件を整えるのは難しく、再開するのは現実的ではない。

しかし、先日ふとした折に、過去に作った服の写真やメモを見つけた。 これを機に当時の記憶を掘り起こしながら、記事として書き留めていきたい。

無駄を削ぎ落としたミニマルなシャツ

とてもシンプルなデザインのシャツを作った。

シャツの前面
シャツの前面

以下のディテールを省いている。

  • ポケット
  • ダーツ
  • 肩縫い目(前ヨーク)
  • 剣ボロのボタン

「Simple is best」とはよく言うものの、それを実現するのは難しい。 「シンプル」と「ただの手抜き」は紙一重であるし、素材やディテールのバランスによっては、一歩間違えば平凡や稚拙に転びかねない。 この「無駄を削ぎ落とす」という行為は、余計なものを排除するのではなく、むしろ必要なものを過不足なく探し出す作業だと考えている。

シャツの背面
シャツの背面

そして、全体的にギャザーを多用することで、立体的な表情をシャツに与えている。 このギャザーは単なる装飾ではなく、動きと快適さを両立させるためのデザインでもある。

ボタンの見えない比翼仕立て

比翼の断面
比翼の断面

見返し付きの比翼仕立てとなると、ちょっとしたアクロバティックな縫製技術が必要になる。 普通のシャツであれば、裾まで一直線に縫えるのだが、今回はクラシックシャツをイメージし、前端をあえて丸くカットしてみた。 結果として比翼は途中で終わる形に。

鳥足掛けでボタンを留めやすく

鳥足掛けのシャツボタン付け
鳥足掛けのシャツボタン付け

シャツのボタンといえば、クロス掛け(×)か二の字掛け(Ⅱ)が定番だろう。 どちらも馴染み深い形で、間違いなくその大半がこのどちらかに落ち着く。

さて、このシャツでは「鳥足掛け」というアプローチを採用している。 イタリア語では「ザンパ・ディ・ガッリーナ」と呼ばれ、直訳すると「鶏の足」。 なんともイタリアらしく、視覚的なインパクトのある名前だ。

イタリア製のハンドメイドシャツでよく見られるこの方法。 そのメリットはというと、ボタンの中心が少しだけズレることで、片側が浮き上がり、ボタンがかけやすくなる点にある。

ちなみに、このシャツに使ったのはすべて白蝶貝のボタン。 フロントボタンについては、比翼部分の厚みを抑えるために1.8mmで統一した。

すっきりした印象のバンドカラー

バンドカラー

前中心の衿の高さは 2cm、後ろ中心は 2.5cm とし、緩やかなカーブを描くようにカッティングしてみた。 衿としてはかなり細めの部類だと思うが、この控えめな高さが意外と全体のバランスを決定づける。

エレガントなカフスを目指して

カフス

カフスの形状はラウンドカットを採用。 角を丸くカットすることで、見た目に柔らかさをプラスしつつ、実用性もアップしている(引っかかりにくくなる)。

さて、このラウンドカフスに据えたのは、4mm 厚の白蝶貝ボタン。 握手をする時、カフェでコーヒーを飲む時、カフスは意外にも人の視線を集める。 だからこそ、ボタン素材の中でも「王様」扱いされる白蝶貝、さらに市場でほとんどお目にかからない 4mm の極厚ボタンを選んでみた。

ボタンのない剣ボロ

剣ボロ

剣ボロの中間地点には、通常ガントレットボタンが付くものである。 しかしながら、ギャザーを多く入れることで十分なゆとりを確保できると判断し、あえてこのボタンを省略した。 それに伴い、剣ボロの長さは短めの 90mm に設定しているが、手の大きい私でも難なく腕を通すことができた。

ふんわり袖つけ

ふんわりとした袖付け

袖のいせ分量は 34mm と、たっぷりと余裕を持たせている。 適度ないせを加えることで、袖山を高く設定しても生地にゆとりが生まれ、動きやすさが向上するという仕掛けだ。

一般的なシャツの袖では、袖山を低くして運動性を確保する手法が取られることが多いが、袖山は高いほうがドレッシーでカッコ良い。

肩線のないヨーク

たっぷりギャザーのヨーク

ヨークにはたっぷり 60mm のギャザーを入れている。 とはいえ、よく見るとヨーク中心に接ぎ目があり、まるでスプリットヨークのように見えるが、実はこれ、前身頃からそのまま続いているパーツなのだ。 そうなると、これを本当に「ヨーク」と呼んでいいものかどうか、少々自信がない(むしろ前身頃の一部、と言うべきかもしれない)。

それでも、このデザインには利点がある。 肩線をなくすことで縫製の手間を省いただけでなく、仕上がりも驚くほど快適になる。

まず、縫い目が肩に当たらないためストレスを感じることがなく、肩まわりが軽やかだ。 そしてギャザー部分は生地がバイアス(斜め方向)になっているため、適度な伸縮性が生まれる。 おかげで、例えば前かがみになったときでも服が身体の動きにピタリと寄り添ってくれるというわけである。

名前を知らない脇の処理方法

脇の縫い代処理

脇の処理にはいろいろな方法がある。 ガゼットを使ったり、スリットを入れたりと、まあ選択肢は多い。 このシャツでは、少し珍しい脇の縫い代処理を採用している。

これは、ある日ネットを巡回していた際に見つけた古いビンテージの服を思い出しながら再現したものだ。 ただし、正直なところ「これがその形だったかどうか」は自信がない。 もしかしたら記憶違いの再現かもしれないし、もはやオリジナルとも言えるかもしれない。

ちなみに、個人的にガゼットはあまり好みではない。 生地に厚みが出るのでスマートさに欠けると感じるからだ。 そこで、今回は生地を 2 枚重ねて返し縫いを駆使した。 ガゼットなしでも十分な耐久性を実現している。

仮に脇にストレスがかかる動きをしたとしても、しっかり保ってくれる仕様になっている。 とはいえ、実際のところ、現代の縫製技術がこれほど進歩している中で「脇が裂ける」なんて心配を本気で考える必要はあまりないけれど。

細く強いヘムライン

細めの裾処理

裾は 4mm 幅の 3 つ折りで仕上げた。 このデザインは曲線が多いため、必然的に裾処理を細くしなければならなかったわけだ。 仮に太めに仕上げようとするなら、別布で切り替えるなどの手間が必要で、正直そこまでする気力はなかった。

また、折るたびにミシンをかけながら裾を固定している。 確かに面倒な作業ではあるが、この方法のほうが縫いやすいのだから仕方がない。 それだけではなく、ミシンを何度もかけることで裾に適度な硬さが生まれ、立体感を出すことができるというメリットもある。

例えば、ワーク系ウェアの衿腰などもそうだが、ミシンステッチを重ねることで生地がしっかり立ち上がり、形がきれいに出るのだ。 もちろん、この方法がすべての素材に合うわけではなく、しっかり見極めが必要だ。 それでも、「裾に芯のあるシャツ」として、1 つの表現方法としてアクセントになるんじゃないかと思う。

生地について

このシャツに使用した生地は、英国王室御用達ブランドとして知られる DAKS のオーダーメイド用ファブリック(もちろん綿 100%)。 薄すぎず厚すぎず、まさに「ちょうど良い」を体現した生地で、オールシーズン活躍する優等生だ。

そしてもう一つ、このシャツにはちょっと拘ったポイントがある。 それは針目の細かさ。 一般的なシャツは 3 センチあたり 16 針で縫製されることが多いが、このシャツでは部分的に 3 センチに 33 針という非常に細かな針目で縫っている。

もちろん、シャツ全体がただ均一にミシンを入れられているわけではなく、見極めた上で針目を微調整している。 それゆえ、密かに「微妙な揺らぎ」と「人の手の温かみ」が全体に宿っているという寸法である。

さいごに

このシャツは試行錯誤の中で生まれた 1 つの答えに過ぎない。 しかし、ものづくりの魅力は必ずしも完璧を目指すことではなく、その過程で自分自身と向き合い、新しい発見を楽しむことにあるのだと改めて感じた。