月の土地をもらった
先日、恋人から唐突に謎の封筒をもらった。 封筒には見たことのないフォントで「Celestial Real Estate」と書いてある。 Real Estate ということは不動産関連の書類か? それにしては日本っぽくない妙な色合いをしている。

喜んだポーズを一応してみたものの、内心では封筒の中身よりもどうしてこの贈り物をしようと思ったのかについて頭の中で反駁が繰り返されていた。 その決着がついた頃に封筒の中身についての検証が始まった。
封筒というものはフラップを開けるまで中身を無限に想像できるという点で好きだ。 特に宛先も何も書いていない封筒。 だが、1 日あたり誰しも平等に 24 時間が与えられているとはいえ、いつまでも想像の暗がりを彷徨っているわけにもいかない。
檻の中の動物を見るような恋人の視線をよそに仰々しく封筒の中身を取り出してみると、厚みのある 3 枚の書類がひっそりと入っていた。

早速それぞれの書類にくまなく目を通してみる。 薄々と内容が飲み込めてきた。にわかには信じ難いのだが、月の土地を 1 エーカー1ほどもらったらしい。

将来的に手紙を出す方がいれば以下の住所に送っていただきたい。
AREA: J-5 / Quadrant Bravo Trot
LOT: #225 / 1151
APPROXIMATE: 20° - 24° S.
LONGITUDE: 32° - 36° W.
ここまで記事を読んでもらって疑問に思った人は多いと思うが、そもそも月の土地の権利を勝手に主張するのはいかがなものなのか。 販売元である Lunar Embassy のホームページを見てみると以下のような記述があった。
月の土地を販売しているのは、アメリカ人のデニス・ホープ氏。(現アメリカルナエンバシー社 CEO) 同氏は「月は誰のものか?」という疑問を持ち、法律を徹底的に調べました。すると、世界に宇宙に関する法律は 1967 年に発効した宇宙条約しかないことがわかりました。 この宇宙条約では、国家が所有することを禁止しているが、個人が所有してはならないということは言及されていなかったのです。 この盲点を突いて合法的に月を販売しようと考えた同氏は、1980 年にサンフランシスコの行政機関に出頭し所有権の申し立てを行ったところ、正式にこの申し立ては受理されました。 これを受けて同氏は、念のため月の権利宣言書を作成、国連、アメリカ合衆国政府、旧ソビエト連邦にこれを提出。 この宣言書に対しての異議申し立て等が無かった為、LunarEmbassy.LLC(ルナ・エンバシー社:ネバダ州)を設立、 月の土地を販売し、権利書を発行するという「地球圏外の不動産業」を開始しました。
一応根拠はあるみたいだが、所有権は例外を除いて客観的要件として占有を伴う必要があるため、実際に月の土地を占有しているわけではない Lunar Embassy が所有権を認められる可能性はまずないと思っている。 ただ、そんな当たり前のことを言ってしまうのは野暮だ。
もしかしたら今後、世界秩序が崩壊してなぜかこの土地の所有権が国際的に認められる可能性もゼロではない。 そんな世界線に生きられたら宇宙人のような恋人とともに月でひっそりと地球を眺めながら暮らすのも悪くないだろう。